数年前より、多田先生が呼吸法の説明の中で(特にイタリアの講習会で)マインドフル
ネスという言葉をたまに使われるようになりました。 マインドフルネスというのは、今この瞬間により注意を向けることで、集中力を高めたり、ストレスを軽減したりできるというものです。そもそもこれは仏教の座禅などで行われる瞑想のテクニックを、仏教の宗教的な部分をなるべく取り除いて、瞑想行としての効果を抽出したもので、仏教の基となっているヨガの瞑想そのものへの回帰でもあります。 特筆すべき点としては、ヨガそのものをその思想なども含めて学ぶよりも、西洋の人々にとって理解しやすくなっているということが挙げられ、欧米の人たちが武道の精神を学ぶのにも、その助けとなります。 ちなみに多田先生は合気道開祖植芝盛平先生から合気道を学ぶのと並行して、中村天風先生の心身統一法というヨガの修養をされていました。ヨガの行法の中にある、禅宗や日本武道の根幹をなす精神修養としての東洋的訓練法を学び、植芝盛平先生が神道の祝詞を唱えてから稽古を行ったり、真言密教の印をきり結界をはってから稽古を行っていたことを、ヨガの呼吸法でもって指導して下さっています。
現在、マインドフルネスとして行われていることを、多田先生は60年以上前から合気道の稽古に結び付けて指導されてきました。常々合気道もヨーロッパなどから逆輸入される時代が来るかもしれないと、我々日本人の門人に発破をかけてこられたわけですが、マインドフルネスなどはまさに、元々東洋から生まれた修練法を、西洋的に解読・理解され、現代の日本人にはむしろ分かりやすい形で逆輸入されたものだと言えると思います。 我々合気道を学ぶ日本人としては、他者との競争や強弱にとらわれることなく、今この瞬間の自分の内側に目を向け、精神修養としての武道の道を歩んでいきたいものです。
2年ほど前になりますが、「呼吸法とマインドフルネス」という本の中で多田先生が合気道の呼吸法という文章を書かれているので、良かったら読んでみてください。ちなみにこちらで紹介されている呼吸法は、中村天風先生のヨガの呼吸法ではなく、多田先生が開祖についている中で、学ばれたものです。
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